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札幌高等裁判所 昭和59年(ネ)213号 判決

控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という。)

瀬川政吉

右訴訟代理人弁護士

宮西政信

被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という。)

小山睦子

右訴訟代理人弁護士

能登要

武部悟

被控訴人

石川敏夫

主文

一  控訴人の控訴に基づき、原判決の主文第四項のうち被控訴人小山の原判決添付の別紙目録一記載の建物に関する請求部分及び同第六項を次のとおり変更する。

1  被控訴人小山と控訴人との間において、被控訴人小山が右建物につき一万分の一七四七の共有持分権を有することを確認する。

2  控訴人は被控訴人小山に対し、右建物につき札幌法務局滝川出張所昭和五一年一一月二四日受付第三八五一号をもつてした所有権保存登記について、別紙目録記載のとおりに更正登記手続をせよ。

3  被控訴人小山の右建物に関するその余の請求を棄却する。

二  控訴人の、被控訴人小山に対するその余の控訴及び被控訴人石川に対する控訴をいずれも棄却する。

三  被控訴人小山の附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用中、控訴人と被控訴人小山との間においては、第一、二審を通じて右両名の間に生じたものを五分し、その三を控訴人の負担とし、その余を被控訴人小山の負担とし、控訴人と被控訴人石川との間においては、控訴人の被控訴人石川に対する関係での控訴費用を控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

(二)  被控訴人らは、更に各自控訴人に対し金二〇〇万円及びこれに対する被控訴人小山については昭和五五年二月一七日から、被控訴人石川については同月一九日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被控訴人小山の請求を棄却する。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁(被控訴人ら)

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

3  附帯控訴の趣旨

(一)  原判決中、被控訴人小山の敗訴部分のうち損害賠償請求に関する部分を取り消す。

(二)  控訴人の被控訴人小山に対する損害賠償請求を棄却する。

(三)  控訴人は、被控訴人小山に対し更に金一〇〇万円を支払え。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

4  附帯控訴の趣旨に対する答弁

(一)  主文第三項と同旨

(二)  附帯控訴費用は被控訴人小山の負担とする。

二  当事者の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決事実摘示並びに本件記録中の当審における書証目録及び証人等目録の記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決八枚目表八行目から一〇行目までを、次のとおり改める。

「(一) 控訴人と被控訴人小山とが婚姻した当時は、双方ともほとんど財産はなく、控訴人は永井木材に工員として勤務し、月額金一万五〇〇〇円の給与の支給を受けていたものであり、被控訴人小山は、その実家である訴外小山信男方で農業の手伝いをし、昭和三六年から昭和四三年までの毎年春から秋までの間一か月金一万七〇〇〇円余の収入を得ていた。被控訴人小山はその後昭和四三年から昭和五〇年まで川村洋裁店に勤務し、一か月金八、九万円、昭和五〇年から昭和五三年まで生活協同組合に勤務し、一か月金八万円、昭和五三年四月から訴外会社空知作業所に勤務し、一か月金八万円の収入をそれぞれ得ていた。控訴人と被控訴人とは、昭和四六年ころダンプカーを代金二八〇万円、二年間の割賦返済の方法で購入し、控訴人において右ダンプカーを運転して稼働し、右割賦代金の支払が完了した昭和四九年ころ、両名の間に定期預金五〇万円があつた。控訴人と被控訴人小山とは、昭和四九年一一月ころ婚姻共同生活を営むための住居に供する目的で、本件土地を代金二〇〇万円で買い受け、そのうち金五〇万円は右定期預金でもつて支払い、残代金一五〇万円は被控訴人小山の実家から借り入れて支払をした。控訴人と被控訴人とは、昭和五一年一一月ころ前同様の目的で、本件建物を請負代金六五〇万円で建築し、そのうち金二五〇万円は右両名のその後の貯蓄でもつて支払い、残金四〇〇万円は住宅金融公庫から借り入れて支払をした。右公庫からの借入金は、昭和五一年一二月から毎月金二万九〇〇〇円の割合で割賦返済している。被控訴人小山の前記収入に、同被控訴人が家事及び育児に従事してきたことを合わせると、同被控訴人の寄与は少なくなく、本件土地、建物が婚姻中の取得財産であることにより共有の推定を受けるだけでなく、実質的にも、少なくともその半分は被控訴人小山の寄与により取得したものであり、本件土地、建物の共有持分権二分の一は同被控訴人に帰属する。」

2  同八枚目裏八、九行目を次のとおり改める。

「(一) 請求原因(一)の事実のうち、控訴人と被控訴人小山とが婚姻した当時、双方ともほとんど財産はなく、控訴人が木工場の工員として勤務し、被控訴人小山が昭和三七年から約六年間その実家の農業の手伝いをし、その後洋裁店で約八年間(月収約八万円)、その後生活協同組合にそれぞれ勤務し、昭和五三年四月から訴外会社空知作業所に勤務したこと、昭和四九年一一月ころ本件土地を買い受け、昭和五一年一一月ころ本件建物を請負代金六五〇万円で建築したこと、右請負代金の支払のため住宅金融公庫から金四〇〇万円を借り入れたことは認めるが、その余の事実は否認する。本件土地の買受け代金は、一四七万円であり、控訴人と被控訴人小山とが支払をしたのはそのうち金五〇万円にすぎず、残代金は控訴人の母から借り入れて支払をした。本件建物の請負代金のうち、控訴人と被控訴人小山とが支払をしたのは金一〇〇万円であり、住宅金融公庫からの借入金四〇〇万円は、昭和五一年一二月から毎月金二万九三四三円宛一八年間の割賦払の約束であるが、これは控訴人が支払をしている。請負代金の残金一五〇万円は、本件建物の手直し分として未払となつている。したがつて、本件土地、建物について被控訴人小山が負担した部分は僅少であり、共有持分権を認めるべき根拠はない。」

3  〈証拠関係省略〉

理由

一当裁判所は、控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求(本訴)及び被控訴人小山の控訴人に対する損害賠償請求(反訴)はいずれも原審が認容した限度で正当と判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由一(原判決一〇枚目表一三行目から同一五枚目表三行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一〇枚目裏七行目の「争いがなく」の次に「(ただし、甲第二号証の二のうち、各日付欄の上欄にある「①」ないし「⑧」の数字、丸印及び「5月」ないし「7月」の部分を除く。右部分は控訴人本人尋問の結果(原審第二回)によつて真正に成立したものと認められる。)」を加え、同七、八行目の「被告小山本人尋問の結果」を「被控訴人小山(原審)及び控訴人(原審第二回)各本人尋問の結果によつて」と改める。

2  同一一枚目裏末行の「四日」を「五日」と、同一二枚目裏七行目の「被告小山本人尋問の結果」を「被控訴人小山本人尋問の結果(原審)によつて」と、同一一行目の「原告(第一二回)」を「控訴人(原審第一、二回)」と、同一三枚目裏七行目の「住民届け」を「転入届」とそれぞれ改める。

二共有持分権の確認請求等について

1  被控訴人小山と控訴人とが昭和三六年一二月二六日婚姻届出をして共同生活を始めたこと、婚姻当初は両名とも財産はほとんどなく、控訴人は木工場の工員として勤務し、被控訴人小山は昭和四二年ころまでその実家の農業の手伝いをしたこと、被控訴人小山がその後洋裁店に約八年間(月収約金八万円)、その後生活協同組合にそれぞれ勤務し、昭和五三年四月から訴外会社空知作業所に勤務したこと、昭和四九年一一月ころ本件土地を買い受け、昭和五一年一一月ころ本件建物を請負代金六五〇万円で建築し、いずれも控訴人の所有名義としたことは、被控訴人小山と控訴人との間において争いがない。

〈証拠〉を総合すれば、被控訴人小山がその実家の農業の手伝いをしたのは毎年四月から一〇月までの農繁期であつたこと、生活協同組合に勤務した期間は昭和五一年ころから昭和五三年初めころまでであり、月収は金七、八万円であつたこと、訴外会社空知作業所から支給を受けた給与は一か月手取り金七、八万円(四月から一二月まで)、年末賞与が金七万円、冬期間の失業保険金が平均金二八万円(一月から三月まで)であつたこと、控訴人が婚姻当初木工場から支給を受けた給与は一か月約金一万五〇〇〇円であつたこと、控訴人は昭和四二年ころから昭和四六年ころまで北日本砂鉄に運転手として勤務した後、昭和四七年ころダンプカーを代金約二八〇万円で購入して自らこれを運転し、砂利運搬の仕事を始めたこと、右購入代金は、頭金五〇万円を控訴人と被控訴人小山との共働きによる貯蓄から支払い、残額は二年間の割賦で支払をしたこと、本件土地は右両名の婚姻共同生活を営むための宅地として買い受けたものであつて、代金は二〇〇万円であり、そのうち金五〇万円は右両名の共働きによる貯蓄から支払い、残代金一五〇万円は被控訴人小山の実家から借り入れて支払い、その後約一年で右両名の共働きによる収入から実家に返済したこと、本件建物は右両名の住居に供する目的で建築したものであつて、請負代金六五〇万円のうち金二〇〇万円は、右両名の共働きによる貯蓄から支払をしたこと、うち金四〇〇万円は住宅金融公庫から借り入れて支払をしたが、その借主は控訴人のみであり、返済方法は、昭和五二年一月から昭和六九年一二月までの毎月七日、二一六回に合計金六三〇万七一三〇円(第一回は金二万六五五〇円、第二回以降金二万九二一二円宛)を支払うというものであり、被控訴人小山と控訴人とは昭和五四年八月五日別居(原判決一三枚目裏二、三行目)したのであるから、右両名の共働きによる収入からは昭和五二年一月分から昭和五四年七月分までの三一回分合計金九〇万二九一〇円が支払われ、昭和五四年八月分から昭和六一年四月分までの合計二三六万六一七二円は控訴人が既に支払ずみであり、昭和六一年五月分から昭和六九年一二月分までの合計金三〇三万八〇四八円は控訴人に支払義務があること、前記請負代金の残金五〇万円は、控訴人において本件建物の瑕疵を理由として請負人に対しその支払を拒んでおり、現在では請負人からの請求もなく、控訴人も支払う意思がないこと、昭和四七年ころ以降の控訴人の収入については、これを認めるべき確たる証拠がないが、控訴人は毎月の収入をすべて被控訴人小山に渡し、冬期間は本州に出稼ぎに行つていたこと、しかし、昭和四七年から昭和四九年末ころまでは、最初に購入したダンプカーの割賦金を支払い、昭和五二年ころ二台目のダンプカーを代金八八〇万円で購入し、頭金二〇〇万円は控訴人と被控訴人小山との共働きによる貯蓄から支払い、残代金を毎月約金二八万円宛割賦で支払い、他にナンバー料等に一か月約九万円を支払つていたため、控訴人の被控訴人小山に対する出稼ぎ先からの送金が少なく、被控訴人小山が生活費に窮したことも二度程あつたことが認められる。甲第四号証には、本件土地の売買代金として金一四七万円との記載があるけれども、被控訴人小山本人尋問の結果(当審)によれば、売主の税金対策として右の金額を記載したものであることが認められるので、いまだ右認定を動かすに足りない。また、控訴人及び被控訴人小山各本人尋問の結果(各当審)のうち右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしてたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2 以上に認定した事実からすれば、本件土地は、被控訴人小山と控訴人との婚姻共同生活を営むための宅地として、代金二〇〇万円で買い受け、そのうち金五〇万円は右両名の共働きによる貯蓄から、残代金一五〇万円は右両名の共働きによる収入から支払われたものであり、このように、妻である被控訴人小山が共働きをし、いわゆる内助の功を超えて本件土地の取得に寄与している場合においては、たとえ夫である控訴人の単独名義で買い受けたものであつても、これを名義人の特有財産とする旨の合意もしくは特段の事情のない限り、被控訴人小山と控訴人との共有に属すると解するのが相当であり、本件においては右合意もしくは特段の事情は認められない。そこで、共有持分の割合について考察するに、被控訴人小山の収入は一か月金七、八万円であつたが、控訴人の収入については、被控訴人小山の収入を上回つていたであろうとはいえても、その額について確証がなく、被控訴人小山が勤務をした上に家事及び育児にも従事したことを考慮すると、本件土地の代金について控訴人と被控訴人小山とは各二分の一宛を出捐したものと評価するのが相当であるから、被控訴人小山は本件土地につき共有持分二分の一を有するというべきである。次に、本件建物は、被控訴人小山と控訴人との住居に供する目的で建築したものであつて、請負代金六五〇万円のうち金二〇〇万円は、右両名の共働きによる貯蓄から支払い、うち金四〇〇万円については控訴人が住宅金融公庫から借り入れて支払い、右公庫に対し元利合計金六三〇万七一三〇円を支払うべきところ、そのうち金九〇万二九一〇円は右両名の共働きによる収入から支払をしているところからすれば、本件土地について前述したのと同様の理由から、本件建物も右両名の共有に属するものと解するのが相当である。そこで、共有持分の割合について検討するに、本件建物について支払うべき総額は金八三〇万七一三〇円であり(前記請負代金のうち金五〇万円は、控訴人において本件建物の瑕疵を理由として支払を拒んでおり、かつ現在では請負人からの請求もないので、今後とも支払うことはないと考えられるので、本件建物の共有持分権の割合を定めるにあたつては考慮する必要はないといえる。)、被控訴人小山が昭和五四年八月四日まで勤務の上に家事及び育児にも従事したことを考慮すれば、右のうち金二九〇万二九一〇円は、控訴人と被控訴人小山とが各二分の一宛を出捐したものとみるのが相当であり、残額五四〇万四二二〇円のうち昭和五四年八月七日から昭和六一年四月七日までの合計金二三六万六一七二円は控訴人が既に支払をしており、残金三〇三万八〇四八円は控訴人が今後とも住宅金融公庫に対し支払う義務があり、かつ控訴人が支払をして行くものと考えられるので、被控訴人小山は、本件建物につき共有持分一万分の一七四七を有するものというべきである。

2,000,000円+902,910円=2,902,910円

(小数点5位以下切捨て)

3  控訴人が本件土地、建物について被控訴人小山の前記2の各割合による共有持分権を争つていることは、弁論の全趣旨によつて明らかであるから、被控訴人小山は控訴人に対し、右各共有持分権の確認を求める利益があるというべきである。また、控訴人が本件土地、建物について単独所有の登記名義を有することは、被控訴人小山と控訴人との間において争いがないので、被控訴人小山は実体関係と登記面との不一致を補正するために、控訴人に対し、本件土地について原判決添付の別紙目録二(一)のとおりに、また、本件建物について本判決の別紙目録記載のとおりに、各更正登記手続を求めることができる。

三以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する損害賠償請求及び被控訴人小山の控訴人に対する損害賠償請求は、いずれも原判決が認容した限度で正当であるから、控訴人の右請求部分に対する控訴及び被控訴人小山の右請求部分に対する附帯控訴をいずれも棄却し、被控訴人小山の本件土地、建物についての共有持分権の確認及び更正登記手続請求は、本件土地については正当であるから、これを認容した原判決は相当であり、控訴人の右請求部分に対する控訴を棄却し、本件建物については共有持分権一万分の一七四七の確認及び右共有持分権の割合による更正登記手続を求める限度で正当であるからこれを認容すべく、その余は失当として棄却すべきところ、原判決はこれと一部結論を異にするので、これを主文第一項のとおりに変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九六条、九三条、九二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官丹野益男 裁判官松原直幹 裁判官岩井 俊)

目  録

登記の目的 一番 所有権更正登記

原   因 錯誤

更正後の事項 砂川市北光八番地八

一万分の八二五三 瀬川政吉

札幌市東区北二一条東一二丁目三五番地 梶浦ビル

一万分の一七四七 小山睦子

権 利 者 札幌市東区北二一条東一二丁目三五番地 梶浦ビル 小 山 睦 子

義 務 者 砂川市北光八番地八 瀬 川 政 吉

不動産の表示

所在 砂川市北光八番地八

家屋番号 八番八

種類 居宅

構造 木造亜鉛メッキ鋼板葺地下

一階付二階建

床面積

一階 六九・八〇平方メートル

二階 三五・五〇平方メートル

地下一階 一〇・九八平方メートル

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